5月19日、私たちが事務局を務める第15回目の「Children Firstのこども行政のあり方勉強会〜こども庁の創設に向けて〜」を開催しました。
今回の勉強会では、丸の内の森レディースクリニックの宋美玄院長から「子ども達に必要な包括的性教育と生理の貧困」、NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむの赤石千衣子理事長から「コロナ禍でのシングルマザーと子どもたちの状況」についてヒアリングを行いました。
写真)冒頭の挨拶(山田太郎)
まず、宋先生からは包括的性教育とユースクリニックの導入についてご提言がありました。包括的性教育とは、性に関する科学的根拠に基づいた正確な情報を学校が子どもたちに教えることです。ユースクリニックとは、13歳〜25歳の若者を対象に、人間関係やセックスに関する疑問、性感染症、避妊、デートDVなどの幅広い相談に、助産師をはじめとする専門家が対応している施設です。
写真)宋先生
この提言は、①性の知識不足②性に対する意識③アクセスの悪さ、という3点の問題意識からきています。以下、3つの問題意識について各々説明します。
・性の知識不足
日本の小・中学校保健体育科では受精・妊娠については教えますが、性交・妊娠に至る過程、避妊を教わる機会がありません。若年層の予期せぬ妊娠出産によって孤独な育児に陥るリスクも増加します。
また、家庭や性別によって受ける性教育の内容や質が異なります。諸外国の性教育と比較しても、日本の性教育は決して十分とは言えない状況です。
図)宋先生提供資料
・性に対する意識
性に対する意識では、「自分の体や臓器を自分で決定して良い」という考え方が浸透していない、と指摘がありました。例えば、パートナーに了承を得ないと避妊ができない、男の子を出産するまで子どもを産み続けなければいけないなどの事例が当てはまります。子どもを持つか持たないか、いつ持つか、何人持つかを女性が決めることは当然の権利です。しかし、こういった考え方を教わる機会がないため、女性が自分自身の人権をないがしろにしてしまったり、周りからないがしろにされてしまっているのです。このように、性に対する意識を持つことは、人権を守ることにも繋がります。
・アクセスの悪さ
避妊薬であるピルや中絶費が高く手を出しにくいこと、性について相談する場所がない、そして「生理の貧困」と言われているように親の経済状態やネグレクトにより生理用品にすらアクセスできない問題等が挙げられます。
質疑応答では、衆議院議員の鈴木貴子先生から「生理用品を設置するだけでなく、相談先も与えることが必要なんじゃないか?」と指摘があったように、現状若い子どもたちが性について相談する環境が整っているとは言い難い状況です。代表的な相談場所として産婦人科がありますが、受診者が「若いのに…」「相当遊んでる子」というような偏見を持たれていると感じてしまったり、保険証を親が所持しているため産婦人科に行きづらいなどの問題があります。
産婦人科は本来、月経が始まれば自己管理のために訪れて良いはずの場所です。しかし、若くして性交経験を持つ女性に対する批判的視線がまだまだ強い日本社会において、産婦人科に足を運ぶことは心理的に容易ではありません。
写真)鈴木貴子先生
以上3つの問題の解決策として、2つの提言がありました。それが包括的性教育とユースクリニックの設置です。
まず、①性の知識不足②性に対する意識の課題を解決するためには、教育が大切になってきます。そして、科学的根拠に基づいた正しい情報を一律で教えるには、家庭よりも学校で行う方が妥当です。さらに、性に関する問題は子どもの人生を大きく左右する大事な問題でもあります。したがって、子どもの教育を受ける権利の1つとして、包括的性教育を盛り込んでほしいと力強い提言をいただきました。
次に、③アクセスの悪さを解決するために、ユースクリニックについて紹介がありました。先ほども少し触れたように、子どもにとって産婦人科に行くことの心理的ハードルが高いです。しかし、ユースクリニックでは10代〜20代前半の男女しかいない上、些細なことから妊娠まで幅広い相談を受け付けているので、偏見や白い目を気にすることなく相談できるのです。また、現在日本ではピルや中絶の費用は高額ですが、諸外国ではユースクリニックに行くと無料でもらうことが出来ます。このように、性に関する相談ができ無料で解決が出来るユースクリニックの必要性について説明がありました。
子どもの頃から正しい性教育を行うことは、自分の体を大切にして、他者の体も大切にすることに繋がります。今回の提言を受け、正しい性教育や性について相談がしやすい環境を整えることが必要であると、改めて強く実感しました。
図)宋先生提供資料
次に、明石先生からは「シングルマザー調査プロジェクト」の調査からコロナ禍におけるひとり親世帯の子どもの状況について説明がありました。
写真)赤石先生
親の経済状況に関して、「コロナ拡大前と比較した就労収入」についての項目では、約50%の世帯で就労収入がコロナ拡大前より減少したことがわかりました。また、貯蓄の推移に関する質問項目では、貯蓄が10万円以下の世帯が3割を超え、増加傾向であることが見られました。さらに、貯蓄が0円の世帯が急増していることからも、ひとり親の経済状況が苦しいことが読み取れます。
図)赤石先生提供資料
次に、コロナ禍での暮らしについての項目では、米などの主食が買えないことが「よくあった」「時々あった」と回答した割合が、東京だと30.6%、東京以外だと41.6%もいたことが調査で明らかになりました。「肉・魚」「野菜」が買えないことが「よくあった」「時々あった」と回答した人は約半数であることもわかっています。この割合の高さには私も非常に驚きました。
また、「小学生のお子さんのことで気がかりだったことはありますか。」という質問に対して、「体重が減った」ことを挙げる人が多く、なんと東京で体重が減った小学生は多い時で10%を超えています。ちなみに、3月に体重が減った小学生が急激に増えるのは、新学期などにお金がかかるため食費を削るからではないか、とのこと。
図)赤石先生提供資料
そして、子どもたちの状況に関する項目では、学校の学習についていけない小学生は3割、学校に行きたがらなくない、あるいは行かなくなった子どもが2割弱いた事実が発覚しました。親からのコメント(自由記述)の中には「勉強には付いて行けないし塾とかにも通わすのは金銭的に難しい」「コロナの影響で不登校になり、ひきこもるようになってしまった 」などといった声などからも、環境の変化が子どもに与えた悪影響が如実に出ています。
図)赤石先生提供資料
以上の調査結果からわかるように、ひとり親世帯の子どもが置かれている状況はコロナによって深刻化しています。実際、赤石先生のところにもコロナ禍で毎日大量の相談が来るとおっしゃていました。このまま不利な状況にある子ども達を放っておくことは、子ども達の未来に大きな損害を生むことになります。一刻も早くコロナ禍でのひとり親世帯(二人親含む)への手厚い支援をこども庁では実現できるよう、全力で努めてまいります。
次回は、「子どもの貧困」の専門家からヒアリング予定です。ひとり親(ふたり親含む)への支援はどうあるべきか、具体的な解決策について議論していきます。
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