11月18日、私たちが事務局を務める第24回目の「Children Firstのこども行政のあり方勉強会〜こども庁の創設に向けて〜」を開催しました。
写真)今回も60名以上の方が出席されました。
写真)山田太郎議員
写真)自見はなこ議員
今回は「こども食堂」について、認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ理事長/東京大学特任教授の湯浅誠さんにご講演をいただきました。子どもを真ん中においた多世代交流の場所であるこども食堂のお話から、こども庁のあり方を考える上でも大変実りある意見交換の時間となりました。
写真)認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ理事長 湯浅誠さん
■こども食堂の性格と実像
現在、「こどもの居場所」と言われる場所は約7000箇所ありますが、その内の約5000箇所はこども食堂であり、年々1,000箇所以上増え続けております。
またこの5000箇所のうち8割(4000箇所)は年齢を問わず「どなたでもどうぞ」というオープン型・共生型であり、子どもを真ん中においた多世代交流の場所であるという現状です。
資料) 多世代交流拠点としてのこども食堂 こども庁におけるこども食堂の位置付け
全国のこども食堂の78.4%が参加者に条件をつけておりません。大人が参加しているこども食堂は77.3%、高齢者が参加しているこども食堂は62.7%という現状からも示される通り、こども”専用”食堂と思われがちだが、こども“もOK”食堂と考えていただく方が実像に近いものとなっています。 こども食堂の現場の皆さんは口々に「子どもをみんなで見守れる場所にしたい」「地域のみんなが気軽に集まれる公園のような場所を作りたい」と仰っています。縦割り横割り年代割りを廃すると掲げているこども庁と同様、こども食堂は人を縦にも横にも割らない地域コミュニティづくりの拠点として位置付けていく必要があるのではないかと思っております。
湯浅さんからも、実際の利用者インタビューについても動画を見せていただき、中山間地域に一人でお住まいの80代、90代の方を車でピックアップ後こども食堂での食事や街での買い物支援を掛け合わせて行なっていたり、同じ会場の別テーブルでお子さんと保護者の方と地域高齢者の方との交流によって張り合いを感じている様子をご紹介いただきました。
上記のことからも、こども食堂の特徴は多面的で多機能であるということだと言えます。
もちろんその中には「子どもの貧困対策」という一面もあります。しかしそれだけではなく、総務省は地域活性化の場として、農水省は「孤食対応」として、厚労省は「子育て支援・虐待予防」の場としてとらえています。
資料)多世代交流拠点としてのこども食堂 こども庁におけるこども食堂の位置付け
地域の方々が「自分たちの地域が少子高齢化・人口減少で随分寂しくなってきたから、地域に賑わいを取り戻そう!自分にできることをやっていこう!」と広がってきている取り組みであると感じております。
■NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえの活動
むすびえでは、前述のような各地域のこども食堂の役割をさらに広く認知していただくための取り組みを行なっています。
資料)多世代交流拠点としてのこども食堂 こども庁におけるこども食堂の位置付け
事業者の皆様にとってもSDGsや地域の衰退を背景に、地域と共に、密着型での活動をしていかなければという問題意識が非常に高まっています。顧客だけでなく地域の方全てがステークホルダーであるという考え方は岸田総理が提唱する「新しい資本主義」の考え方にも通ずるものではないかと思います。
こども食堂はある意味「福祉を超える」、たくさんのご支援をいただいている取り組みです。子どもの貧困対策を含めて子育て支援という枠組みがあり、子育て支援を含めて地域づくりというさらに広い枠組みがあります。「課題を抱えた子どものための場所だよ」と位置付けてしまうと、皆さんが参加しづらくなってしまいます。地域の皆さんが交流をする中にいる、課題を抱えて悩んでいる子どもたちを拾い上げていくことができるような位置づけが重要となります。
資料:多世代交流拠点としてのこども食堂 こども庁におけるこども食堂の位置付け
■子どもの貧困の現状
政府の発表では18歳以下の子ども約2000万人のうち、約13.5%、270万人が貧困状態にあるとされています。しかし、一口に子どもの貧困と言っても、270万人のほとんどの子どもがいわば「黄信号」の状態です。270万人の中にはもちろん、自死を選ばざるを得なかったり虐待により深刻な状況に置かれている「赤信号」の子どもも数万人程度は現実にいることは間違いありません。しかし、大多数は服を着て学校にも行っているし、「自身が貧困である」という自覚はなく、外から見てもわからない「黄信号」の子どもであろうと考えられます。
そうした「黄信号」の子どもたちは、自分自身で相談窓口には行きません。SNSの相談窓口を開設してもおそらくなかなか自ら発信はしないのでは無いかと思います。ですがそのまま放置してしまうと何かのきっかけで「赤信号」に転落してしまう可能性があります。
そんな子どもたちにとっては、「自分には何の問題もありませんよ」という“「青信号」の顔”をして行けるような、誰しもに開かれたオープンな居場所が必要です。その居場所には早期に発見・探知できる「予防的な居場所」としての機能があります。
資料)多世代交流拠点としてのこども食堂 こども庁におけるこども食堂の位置付け
また大半である「青信号」の子どもにはこうした居場所は必要ないのかというと、そうではないと考えています。子どもたちにとって外遊びや異年齢での交流の機会も、三世代同居世帯も激減しています。成長に課題を抱える現代の子どもたちにとっては、こども食堂という居場所による交流という機能も必要であると考えています。
居場所はチカラになります。「自分のことを見守ってくれている」「ここに居場所がある」という安心感から、頑張ろう!というチカラを得ることができます。その想いから、全国2万箇所、全ての小学校区にこども食堂を設置することが望ましいと考えております。
■こども庁への期待
湯浅さんからは、「こども食堂をきっかけに、こども庁の「総合的な調整機能」を発揮していただきたい。」等と、こども庁への期待についても強く主張していただきました。
「こども食堂は前述の通り多面的で多機能な場です。現在内閣府においてはこども食堂を「子どもの貧困対策」と位置付けられていますが、このままでは多様な側面が見えにくい状態が続いてしまいます。こども庁の創設・移管を機に、こども食堂を「多世代交流の子どもの居場所」として位置付けし直していただき、紐づく多様な省庁との総合調整を行なっていっていただきたいと期待します。」
「その際に、このこども食堂はあくまでも民間の取り組みであります。行政サービスの枠に当てはめようとすると既に在り方を選びとっている民間の皆様の自発性・多様性を失わせてしまいかねません。民間のやり方を尊重していただきながら、行政がバックアップをしていくような支援を進めていただき、の無いようご配慮いただければありがたいと考えております。」
■質疑応答の中で浮き彫りとなった課題
坂本哲志前孤独孤立対策担当大臣、柴山昌彦元文科大臣より、国に期待する政策や政策の枠組みについての質疑があり、「こども未来応援交付金」の話題となりました。この交付金はどうしても「子どもの貧困対策」という枠組みとなり、地域自治会などに降りていくと「そういう文脈なのであればうちの地域ではちょっと…」と活用が最大限なされていない現実が見受けられることが明らかとなりました。
写真)坂本哲志前孤独孤立対策担当大臣
写真)柴山昌彦元文科大臣
「地域が寂しくなった」と実感されている自治会等は全国にたくさんいらっしゃいます。やはり「地域の多世代交流の場所」を活性化するための子どもの居場所づくりとして、応援してくれる地元の中小企業など地域の応援団とのマッチングをサポートするコーディネーターを配置するような支援が効果的なのではないかと湯浅さんからご意見いただきました。
また伊藤信太郎衆議院議員からは「名は体を表す」というご意見が上がり、こども食堂は実態はコミュニティサロン・地域食堂であることから、子どもの貧困対策という枠組みを外すためのご提案がありました。
写真)伊藤信太郎衆議院議員
湯浅さんからは、現場の皆さんは「地域の子どものためなら一肌ぬごう!」と120%、150%の力を発揮してくれる大人がやはり多く、こども食堂という名称を希望している方が多いという実態もご共有いただきました。各自治体により「こども食堂・地域食堂」という名称を使用している団体もあり、そうした点からも多様性という特徴的な側面が見られることがわかりました。
鳥取市議会議員のかしま議員より先進事例として全国で初めて郵便局と連携したこども食堂の支援活動「フードドライブ」についてご紹介いただきました。
写真)鳥取市議会議員のかしま議員
市内全郵便局に「フードボックス」を設置し、賞味期限が1ヶ月以上ある食材をご家庭から届けていただくと、郵便局員が「地域食堂ネットワーク」という場所に届けてくださるということです。そこから各こども食堂に食材が届くという仕組みで、2021年7月からはファミリーマートでもフードボックスの設置を開始しているそうです。
この取り組みは沖縄県や群馬県、佐賀県等各地でも始まっておりますが、「地域食堂ネットワーク」等の場所からさらに各地域食堂への配送は誰が行なうのかという課題があります。湯浅さんから配送についてタクシー業界との連携についても推進し、貨客混載の仕組みをテスト運用し始めているとの情報共有がありました。
また農協からの支援も年々増えていることもご紹介があり、市場に乗らない規格外の農産物を寄付してくださったりしているが、やはり同じく「誰が運ぶのか」という課題が立ち塞がっているとのことです。
またこの課題は各省庁に跨っており、事業者からのフードロスは農水省管轄、家庭からのフードロスは環境省管轄、そして出口となるこども食堂は内閣府の管轄というように、各自治体での好事例の共有や情報集積をしたくても宙に浮きがちな状態であることから、こども庁の総合調整機能への期待もお寄せいただきました。
私自身も「こども食堂」が貧困の象徴となってしまっていることに課題を感じており、どちらかというと「地域交流の場」という位置づけが大きいのではないかと考えていたので、湯浅さんに現場での在り方をご紹介いただき、改めてこども庁の総合調整機能の重大な意義を認識いたしました。
また今後デジタル庁でも子ども情報のデータ連携を図っていこうと考えておりますが、「イエローゾーン」と呼ばれる方々を探知するための入り口として、重要な役割を担っていくことになろう「こども食堂」の活性化に期待すると共に、各省庁に横串を通して地域創生・交流を入り口とした枠組みに統一していくことが全国各地域での活性化のために求められていることを受け止めました。
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